東京新聞記事:心で話す「風の電話」岩手・大槌町 遺族と犠牲者つなぐ

早稲田学生寮チームは東日本大震災発生後、岩手県大槌町で活動を続けてきました。先日の東京新聞夕刊の記事で取り上げられている佐々木さんの作られた「森の図書館」にも訪れたことがあります。とても素敵な図書館です。記事をご覧ください。

 

心で話す「風の電話」岩手・大槌町  遺族と犠牲者つなぐ(東京新聞 2013年9月11日 夕刊)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013091102000241.html

東日本大震災で千二百人余の命が失われた岩手県大槌(おおつち)町の海を望む高台に、電話線がつながっていない電話ボックスがある。会えない相手に思いを伝える「風の電話」。震災から十一日で二年半がたつが、今日も誰かが風に乗せ、大切な人と心を通わせている。(高橋貴仁)

風の電話に手を掛け「思いを吐露し、楽になってほしい」と話す佐々木さん=岩手県大槌町で

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 白枠の電話ボックスに、ダイヤル式の黒電話が一台。黒電話の横には、「風の電話は心で話します」と記されている。ノートも備えられ、訪れた人が思いをつづっている。

 「あの日から 二カ月たったけど、母さんどこにいるの? 親孝行できずにごめんね。あいたいよ。絶対みつけて、お家に連れてくるからね」「貴方(あなた)の白髪がとにかく懐かしいです。私はこれからの生活に全力を出して貴方の娘を守って行きます」

 受話器を手に静かに話し掛ける人や、泣き続ける人。訪れても、躊躇(ちゅうちょ)して電話ボックスに入れない人。いまも一人また一人と訪れる。

 風の電話は、ガーデンデザイナー佐々木格(いたる)さん(68)の自宅の庭で、花に囲まれている。佐々木さんは震災前、いとこをがんで亡くした。悲しむ家族を癒やそうと、二〇一〇年冬、不要となって譲り受けた電話ボックスを庭に置いた。「暖かくなってから、周りに花を植えて完成させよう」。春の訪れを待っていたら、震災が起きた。

 多くの命が奪われた。「遺族と亡くなった人の思いをつなぐことが必要と思った」。震災の混乱も収まらない一一年四月、急いで電話ボックスの周りに植栽した。

 うわさは人づてに広まり、次第に人が訪れるようになった。「気丈にしている人でも、実際は心の中で泣いている人が多い。心情を吐露することで、少しでも苦しみから楽になってほしい」と佐々木さん。

 風の電話を知った東京の出版社から、本の提供を受けた。これをきっかけに、庭に立てていたれんが造りの二階建ての小屋を図書館にすることを決めた。児童書や絵本を置き、「森の図書館」と名付けた。一二年四月に開館し、蔵書は六千冊に上るという。

 佐々木さんは「本当の豊かさや、心の問題を考える時代にきている。風の電話や森の図書館は心のインフラだと思っています」と話している。